ミドル転職10年で6倍、なのに採用は若手中心──市場の “ねじれ” の前で立ち止まる
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ミドル転職10年で6倍、なのに採用は若手中心──市場の “ねじれ” の前で立ち止まる

Branding, 2026.05.21 By 中村 尚人

マイナビ「転職動向調査2026年版」では、2025年の正社員転職率は7.6%で過去最高水準、特に40・50代のミドル層が活発化。リクルートエージェントの分析でも、ミドル世代の転職者数は10年で約6倍、50代だけだと約9倍。「35歳転職限界説は過去のもの」と公式に語られる時代になってきました。

ただ、わたしたちCoachersが日々接している中小・中堅企業の採用現場で見ている景色は、データほど明るいものではないんですよね。応募者欄には40〜60代の名前が並んでいるのに、企業側はほとんど手を挙げない、というすれ違いを何度も目にします。

今日は答えのある記事ではなく、この「市場の捩れ」の前で立ち止まったときに見えてきたものを、思うままに書いてみたいと思います。Coachers自身も整いきっていない論点なので、お時間あるときに、一緒に考えていただけたら嬉しいです。

ミドル層の転職、この10年で約6倍まで伸びた

リクルートが2025年3月に発表したプレスリリースでは、リクルートエージェントを通じて転職した40〜59歳のミドル世代の人数が、10年でおよそ6倍に増えていると報告されています。同じデータを年代別にさらに分解すると、50代だけで見ると約9倍。伸び率としては、いま市場でいちばん勢いがあるのは50代、ということになります。

KEY DATA
ミドル世代(40〜59歳)の転職者数
約6
2014年度比 / リクルートエージェント
50代の転職者数
約9
2014年度比 / 年代別TOP
2025年正社員転職率
7.6%
過去最高水準 / マイナビ

リクルート側のコメントも明確で、「企業は事業変革のために豊富な知見・経験を持つ人材を求めており、40〜50代の転職者数の伸びは全体よりも大きい」「35歳転職限界説は過去のものになっており、企業が求める経験を持っている方を採用する動きが加速している」と言い切っています。労働力人口の半数近くを40〜50代が占めていることを考えれば、構造としても自然な流れなのだと思います。

同じ動きは個別業界にも出ています。たとえば金融業界では、銀行・証券・生保・損保のいずれも転職者数が右肩上がりで、リーマンショック後の新卒抑制で30代が薄くなった穴を埋めるために、「マネジメントを担わない専門職スペシャリスト」「部署異動なし」「地域限定(転勤なし)」を前提とした、ミドル・シニア専用ポジションが登場し始めています。年功序列の代表業界ですら、現役40〜50代を迎える受け皿を制度として作り始めているわけです。

ただ、わたしたちが見ている景色は少し違う

ここからが今日の本題です。マクロのデータはそうなっていても、わたしたちCoachersが日々お会いしている中小・中堅企業の採用現場で起きていることは、少し違うんですよね。正直に書きます。

COMPARISON
供給側(求職者)
40〜60代の応募は確実に増えている
人材紹介でも自社応募欄でも、40〜60代の経験者からの応募はむしろ多数派になりつつある。リクルートエージェントでは10年で6倍、50代に絞れば9倍。「動きたい」「動ける」と感じる層は確実に増えている。
需要側(企業)
超即戦力・管理職クラス以外は手を挙げない
わたしたちのクライアントでも、「ミドル層を採りたい」と明示している会社はごくわずか。不特定多数の採用では、いまも年齢での足切りが事実上のスタンダード。マクロの追い風が、ここまで届いていない実感がある。

この捩れには、もちろん企業側の合理的な理由があると感じています。給与レンジが合わない、既存メンバーの平均年齢より上を入れにくい、上司が年下になる組織を消化できない、評価制度やキャリアパスが若手向けに最適化されている──どれも一つひとつは分かるんですよね。Coachers自身も、クライアントに対して「ミドル層も見ましょう」とは積極的に言えていないのが正直なところです。

ただ、応募欄に並ぶ40〜60代の名前を見るたびに、「この方々の経験は、本当にどこにも噛み合わないのだろうか」とふと立ち止まる瞬間があります。そして、6倍とか9倍とかいう数字を見ると、どこかの会社では確実に「噛み合わせ方」を見つけている人たちがいる、ということでもあるはずなんですよね。

現役ミドルを受け入れている会社が、整えていたもの

公開されているミドル転職事例の記事を、自分たちなりに棚卸ししてみました。「現役の40〜50代を、即戦力一択ではない形で正社員に迎え、活躍につなげている」会社が共通して用意していた要素を、いくつかの条件として抽出してみます。これは「これさえやれば」というチェックリストではなく、「これくらいは整えてやっと、ミドル層採用が現実味を帯びてくる」という最低ラインに近いものだと感じています。

CHECKLIST
給与レンジが前職と遜色ない水準で用意されている
「ミドルだから下げる」前提ではなく、市場価値ベースで対等に提示できているか。
 
マネジメントを担わない専門職ポジションが用意されている
「管理職にならないとミドルは採れない」を解いて、専門性で評価される個人貢献ポジションが設計されているか。
 
働き方の自由度(地域限定・転勤なしなど)を選べる
生活基盤が固まっている40〜50代に「全国転勤OK」を前提にしない選択肢を提示できているか。
 
若手との共創を前提にし、「ベテランの翻訳能力」を価値として位置づけている
経験者だけで進めると既存のやり方に落ち着くから、若手の感覚を取り込む。ベテランの役割は「指示」ではなく「翻訳」として明確に置かれているか。
 
制度を「一から議論して作っていく余白」がある
固定的なルールに新メンバーを当てはめるのではなく、ミドル層の経験を制度設計や品質基準づくりに使ってもらう前提が設計されているか。

並べてみると、どれも特殊な仕掛けではなくて、「年齢を理由に分けない採用設計」をしているだけ、とも言えます。ただし「だけ」と書けるほど簡単ではなくて、ひとつひとつは既存の制度や慣行と地続きの話なので、一朝一夕には組み替えられないのもよく分かります。Coachers自身も、これを全部備えているクライアントを思い浮かべると、正直そんなに多くないんですよね。

C
Coachers編集部
HRブランディングの観点から

今回の記事は、結論を提示したくて書いたものではありません。市場のマクロな数字と、わたしたちが現場で見ている景色のあいだに、はっきりとした「ねじれ」があって、その前で立ち止まっている時間そのものを、文章にしてみたかったのです。

わたしたちCoachersも、お客様に対して「年齢を見ないで採りましょう」と自信を持って言える立場ではありません。実際、求人広告の原稿づくりの中で、無意識のうちに「20〜30代中心」を前提にしてしまっていることはあります。HRブランディングという言葉で語るとき、本来そこには「自社で活躍できる人の幅をどこまで描けるか」という問いが含まれているはずですが、その幅を実際に広げる勇気が、自分たちにも、クライアントにも、まだ十分ではないのだと感じています。

ただ、応募者リストを眺めていると、確かに「この方は若手の代わりではなく、別の役割で必要な人かもしれない」と感じる瞬間があるのも事実です。求人広告の原稿を1行変える、年齢欄の運用ルールを社内で見直してみる、そういう小さな問い直しの積み重ねでしか、この捩れは少しずつしか解けないのかもしれません。今日のところは、その問い直しを始める入口として、この記事を残しておきたいと思います。

ACTIONS
自社の「実質的な足切り年齢」を一度書き出してみる
明文化されていないだけで、現場の判断としてはどのあたりで線が引かれているか。責めるためではなく、現状を見える化する目的で。
 
「年齢を見ずに選んだら、誰だっただろう」と1ポジションだけ仮想選考してみる
直近で見送った40〜60代の応募者を1〜2名、年齢情報を伏せて読み返してみる。違和感が残ったら、何が引っかかっていたのかをチームで言葉にしてみる。
 
自社で「ミドルが活躍できそうな職種」をひとつだけ言語化してみる
全社で扉を開ける必要はなくて、まず1職種だけ。専門職、地域限定、若手の翻訳役など、どんな役割なら無理がないか、半歩だけ考えてみる。
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REFERENCES
  • 株式会社マイナビ「マイナビ、『転職動向調査2026年版(2025年実績)』を発表」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002377.000002955.html
  • 株式会社リクルート「ミドル世代の転職は10年で約6倍へ 経験の棚卸しは10年以上さかのぼることが重要」(2025年3月25日) https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2025/0325_15591.html
  • FinTech Journal(SBbit)「なぜ金融業で『ミドル・シニア専用ポジション』が登場? 50代転職で”想定年収増”のワケ」(2024年9月) https://www.sbbit.jp/article/fj/147949
  • 東洋経済オンライン「安定も挑戦も諦めない『50代転職』成功の方程式 日本の製造業を変革する『ベテランの意地』」(2026年3月) https://toyokeizai.net/articles/-/935292 ※本記事の「現役ミドルを受け入れている会社が、整えていたもの」セクションは、本記事を参考に一般化のため企業名・個人名を伏せて記述しています。

 

中村 尚人

中村 尚人 取締役 / ディレクター

新卒で株式会社日立製作所に入社。2021年にCoachers立ち上げメンバーとして参画。採用関連のクリエイティブやマーケティングの戦略設計、ディレクションを担当。

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