採用のアトラクトは”語る”より”聴く”──面接の傾聴で不安解消が32.3pt差
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採用のアトラクトは”語る”より”聴く”──面接の傾聴で不安解消が32.3pt差

Branding, 2026.07.28 By 中村 尚人

 

面接の準備というと、たいてい二つを用意します。何を聞いて見極めるか。そして、自社の何を伝えるか。この二つは、どの会社の面接シートにもだいたい書いてあります。

けれど「候補者が本当は確かめたかったことを、最後まで聴く時間」は、たぶん時間割に入っていません。リブセンスが2026年6月に転職経験者275人へ行った調査では、候補者の80.7%が待遇以外の「こだわり条件」を持ち、そのうち56.3%が選考の前段階で「その条件が満たせるか不安だった」と答えています。

では、その不安はどこで解けたのでしょうか。調査の答えは、わたしたちが「アトラクト=魅力を伝えること」と呼んできたものとは、少し違う方向を指していました。今日はその差を、一緒にのぞいてみたいと思います。

KEY DATA / この記事の数字
転職経験者のうち、待遇以外の「こだわり条件」を持っていた人
80.7%
そのうち、選考の前段階で「条件が満たせるか不安」だった人
56.3%
不安を感じていた人のうち、面接で企業から深く聴かれ、不安が解消した人
88.5%
同じく、深く聴かれないまま不安が解消した人(差は32.3pt)
56.2%

出典:リブセンス「転職経験におけるアトラクトに関するアンケート」(2026年6月23日〜30日実施・2022年以降に転職経験のある20〜59歳/n=275)

アトラクトは「語る」ことだと思っていませんでしたか

アトラクトとは、選考の過程で候補者の入社意欲を高めていく働きかけのことです。多くの現場では、これが「自社の魅力をどう伝えるか」という意味で運用されています。事業の将来性、任せたいポジション、社風。面接の後半15分を、そのプレゼンに充てている会社は少なくないと思います。

ところがリブセンスの調査が示したのは、意欲を左右していたのが伝える側の熱量より、聴かれた実感のほうだった、という結果でした。面接のなかで自分の志向や条件を深く聞かれ、すり合わせる時間があったと答えた人は、88.5%が「選考前の不安が解消した」と回答しています。

IMPACT MAP / 面接で「深く聴かれたか」で、不安の解け方はどう変わったか
深い傾聴があった候補者88.5%
 
深い傾聴がなかった候補者56.2%
 

出典:リブセンス「転職経験におけるアトラクトに関するアンケート」(2026年6月・n=275)/「こだわり条件に不安があった人」の不安解消率

ここで一つ、行き過ぎないように添えておきたい数字があります。深く聴かれなかった人でも、56.2%は不安が解消していました。つまり「聴かなければ意欲は上がらない」わけではありません。ただ、同じ面接という時間の使い方で32.3ポイントの差がついているとすれば、そこは触ってみる価値のある場所だと思います(n=275の自主調査ですので、傾向として受け止めるくらいがちょうどよさそうです)。

候補者の「こだわり条件」は、たいてい待遇欄の外側にある

では、候補者は何を確かめたくて面接に来ているのでしょうか。調査で「こだわり条件」を持っていた人は8割を超えますが、その中身は年収や休日といった待遇の外側にありました。どんな仕事内容が中心になるのか、自分の強みが発揮できる環境なのか——求人票の条件欄には、そもそも書ききれない種類の問いです。

書ききれないから、応募前には解けません。だから選考前に不安が残る(56.3%)。そして面接は、その不安を持ったまま座っている人と向き合う場になります。同じ60分でも、使い方はこう変わってきます。

COMPARISON / 面接60分の使い方
よくある組み立て
見極め45分 + 自社紹介15分
質問リストを消化し、最後に会社の魅力をまとめて伝える。候補者は「聞かれたこと」には答えられますが、自分が確かめたかったことは、逆質問の数分に押し込まれます。
聴く枠を入れた組み立て
先に聴く10分 + 見極め35分 + すり合わせ15分
冒頭で「今日いちばん確かめたいこと」を聞いてしまう。伝える分量は変わらなくても、伝える中身がその人向けに並び替わります。

「相互理解ができたのは、入社した1社だけ」が41.2%

同じ調査で、もうひとつ気になる数字が出ています。深く聴かれて不安が解消したと答えた人のうち41.2%が、「相互理解ができた企業は、入社を決めた1社だけだった」と回答していました。

読み方によっては、少し寂しい数字です。じっくり聴いてくれた会社は最後まで1社だけだった——そう答えた人が4割強いた、ということですから。裏を返すと、ここはまだ混み合っていない場所だということでもあります。予算をかけずに差がつく余地が、面接という既にある60分のなかに残っているのかもしれません。

C
Coachers編集部
HRブランディングの観点から

この結果を「面接官がちゃんと傾聴すればいい」という話にしてしまうと、たぶん現場は動きません。聴けていないのは姿勢の問題に見えて、実は面接の時間割の問題だと感じています。面接シートは見極めのために設計され、質問の数も時間配分もそこに最適化されている。聴く時間が抜けるのは、面接官が冷たいからではなく、その枠がどこにも用意されていないからです。個人の努力ではなく、設計に手を入れるほうが早い場所だと思います。

CANDIDATE VIEW | 候補者の椅子から

御社の求人票を開いた候補者は、8割前後の人が「待遇以外に、どうしても譲れないこと」を抱えています。ただそれは、条件欄を何度読み返しても書いていない種類のことです。だから応募ボタンを押した時点では、まだ確かめられていない。面接は、見極められる場である前に、その人にとっては”やっと聞ける場”なのかもしれません。

わたしたちが採用のご支援で候補者の声をうかがっていても、印象に残ったと語られるのは、立派な会社紹介よりも「自分の話を、途中でさえぎらずに聞いてもらえた」という場面のほうが多い気がしています。

※リブセンス「転職経験におけるアトラクトに関するアンケート」(2026年6月・n=275)と、わたしたちの現場での肌感覚にもとづいています。

そしてこれは、HRブランディングの話でもあります。ブランディングというと発信の量や見せ方に目が行きますが、候補者にとっての御社らしさは、面接で自分がどう扱われたかという一次体験のほうに強く残ります。求人広告の原稿づくりをご一緒していても、「面接で必ず聞かれること」を先に原稿へ書いておくと、面接の場が”確認”から”すり合わせ”に変わっていくのを何度か見てきました。

わたしたちCoachersも、つい伝えたいことを増やしてしまう側です。だからこそ、伝える量ではなく伝える順番を候補者に合わせる、という発想を持っておきたいと思っています。

ACTIONS / 今日からできる3つ
面接シートに「聴く枠」を10分だけ足す
見極めの質問リストとは別の欄として作るのがポイントです。傾聴の有無で不安解消率に32.3ポイントの差が出た調査結果があり、面接官の心がけではなく時間割に書くほうが再現します。
冒頭で「今日いちばん確かめたいこと」を先に聞く
逆質問を最後に置くと、聞ける量は数分ぶんに縮みます。先に聞いてしまえば、伝える量を増やさなくても伝える順番がその人向けに変わる——増やすより並び替えるほうが効く場面です。
聴いた内容を、次の面接官へ1行で申し送る
同じ話を二度させないだけで、相互理解の実感はかなり変わります。「相互理解ができたのは入社した1社だけ」と答えた人が41.2%いた以上、続けられている会社はまだ多くないということでもあります。
 
FAQ / よくある質問
Q. 採用のアトラクトとは何ですか?
アトラクトとは、選考の過程で候補者の入社意欲を高めていく働きかけのことです。自社の魅力を伝えることだと理解されがちですが、リブセンスの調査では、候補者の志向や条件を深く聴いて相互理解をつくることが意欲に効いていました。
Q. 面接で「聴く」時間は、どれくらい取ればいいですか?
正解の分数を示した調査はありませんが、まずは冒頭10分を目安に枠として確保してみるのがおすすめです。大事なのは長さより順番で、最後の逆質問に回すと数分に縮んでしまいます。
Q. 聴く時間を増やすと、見極めが甘くなりませんか?
むしろ逆になることが多いように感じています。候補者が「ここでは正直に話しても大丈夫」と思えたときに出てくるのは、うまくいった話だけでなく、つまずいた経験や合わなかった環境の話です。取り繕った回答を評価するより、見極めの材料は増えます。
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中村 尚人

中村 尚人 取締役 / ディレクター

新卒で株式会社日立製作所に入社。2021年にCoachers立ち上げメンバーとして参画。採用関連のクリエイティブやマーケティングの戦略設計、ディレクションを担当。

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