中途採用の早期離職、1人640万円──求人情報の出し方で防ぐ
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中途採用の早期離職、1人640万円──求人情報の出し方で防ぐ

Branding, 2026.07.23 By 中村 尚人

時間をかけて口説き、やっと入ってくれた中途の中核人材が、半年で「すみません」と辞めていく。採用担当者にとって、これほど骨の折れる出来事はないかもしれません。

しかも痛いのは気持ちだけではありません。エン・ジャパンの試算では、その損失は1人あたり最大640万円。そして早期離職者の38%が理由に挙げたのは、スキル不足でも相性でもなく「入社前に聞いていた情報と違った」でした。

なぜ”情報のズレ”がこれほど高くつくのか。そして、求人や面接の「見せ方」を少し変えるだけで防げるとしたら——今日は、辞めない人に選ばれる情報設計を一緒に考えてみたいと思います。

KEY DATA / この記事の数字
年収600万円の人材が半年で早期離職した場合の企業の損失(試算) 最大640万円
早期離職の理由1位「入社前に聞いていた情報と違ったから」 38%
「事前にネガティブな情報も聞けていれば辞めなかった」と振り返る割合 44%
入社から半年以内の早期離職を経験した人の割合 31%

出典:エン・ジャパン「『早期離職』に関する実態調査」(『エン転職』ユーザー2,502名・2025年7〜8月実施)。損失額は同社試算。

早期離職の「本当のコスト」は、思っているより大きい

エン・ジャパンが2025年夏に『エン転職』ユーザー2,502名に行った調査では、入社から半年以内の早期離職を経験した人が31%にのぼりました。3人に1人が、一度は「入って半年で辞める」を経験している計算です。年代別でも20代32%・30代34%・40代以上30%と、若手に限った話ではありません。

同社は、年収600万円ほどの人材が6カ月で早期離職した場合の損失を試算しています。その内訳を見ると、痛みの正体が見えてきます。

IMPACT MAP / 早期離職1人あたりの損失内訳(試算・合計約640万円)
在籍中に支払った人件費360万円
採用費用(広告・紹介料など)180万円
マネジメント費用36万円
業務引継ぎ・採用関連人件費40万円
教育研修・引留め面談費用24万円

出典:エン・ジャパン「『早期離職』に関する実態調査」(2025年)・同社試算

大きいのは、採用費用より「在籍中に支払った人件費(360万円)」です。つまり損失の多くは、辞めた瞬間に消えるお金ではなく、合わない人と過ごした半年間そのもの。求人広告費だけを見て「採用単価が上がった」と嘆くより、”半年で辞める確率”を下げるほうが、はるかに効く投資かもしれません。しかも賃上げと採用コストの上昇で、この金額は今はさらに膨らんでいる可能性があります(コスト構造そのものは、これからも大きくは変わらないはずです)。

辞める理由の1位は「聞いていた情報と、違った」

では、なぜ辞めるのか。早期離職の理由の1位は「入社前に聞いていた情報と違ったから」で38%。2位は「ハラスメントに遭ったから」で30%でした。ハラスメントのように職場環境そのものに根がある問題もあり、情報の見せ方だけですべてを防げるわけではありません。ただ、最多の理由が”情報のズレ”だという事実は、採用段階に打ち手が残されていることを示しています。

象徴的なのが、次の数字です。

KEY METRIC / 早期離職者が振り返って思うこと
44%
早期離職者の44%が「事前にネガティブな情報も聞けていれば、早期離職をしなかった」と振り返っています。彼らが求めていたのは”良い会社”の証明ではなく、入社後の自分を想像できるだけの「現実」でした。

出典:エン・ジャパン「『早期離職』に関する実態調査」(2025年・n=2,502)

ここには、採用の見せ方をめぐる逆説があります。「良いことだけ」を並べた求人は、短期的には応募を増やすかもしれません。けれど”聞いていた話と違う”という失望の種を、同時にまいてしまう。あえて大変な面も伝える——この一見ブレーキに見える情報開示が、実は640万円の損失を防ぐアクセルになる、というのが今回のデータの読みどころだと感じています。

“リアル”を魅力に変える、求人設計の4ステップ

早期離職への打ち手は、ひとつではありません。入社後のオンボーディングを手厚くする、受け入れる現場を育てる、配属や評価を見直す——どれも効きます。ただ、今回のように辞める理由の1位が「聞いていた情報と違った」なら、いちばん手前で効くのは入口の一手。それが、採用の世界で「RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)」と呼ばれる、良い面も大変な面も含めた”ありのままの仕事像”を先に見せる考え方です。難しく構える必要はありません。今の求人や面接に、次の4ステップを足すだけでも十分に効きます。

1
「誰に向けた仕事か」を1人まで絞る
全員に響く求人は、結局だれの心にも刺さりません。今いる中核メンバーを1人思い浮かべ、その人が「これは自分の話だ」と感じる言葉で書く。ターゲットが具体的なほど、合う人が集まり、合わない人は自然に離れます。
2
「できること」だけでなく「大変なこと」を1つ書く
繁忙期の忙しさ、少人数ゆえの裁量と責任、立ち上げ途中の泥くささ——正直に1つ添えるだけで、求人の解像度は一気に上がります。マイナスを隠さない会社は、かえって「信用できる」と映るものです。
3
面接で、候補者の”期待”を言葉にして確認する
「入社後、どんな状態になれたら成功だと感じますか?」と一問置く。候補者が描く期待と、現場が用意できる現実。この2つを面接の場で照らし合わせておくと、入社後の「思っていたのと違う」を大きく減らせます。
4
内定後に、現場のリアルに触れる接点をつくる
配属予定チームとの面談、1日の同席、現場社員との雑談——入社前に”生の職場”を見せる時間を1回はさむ。ここで違和感が出るなら、入社後に640万円をかけて確かめるより、はるかに小さな痛みで済みます。
C
Coachers編集部
HRブランディングの観点から

「早期離職を防ぐ」と聞くと、入社後のフォローや制度の話に向かいがちです。もちろんそれも大切ですが、今回のデータが指し示すのは、もっと手前——求人や面接という”入口”で、期待値をどうすり合わせるか、という論点でした。合わない人を惹きつけてしまう求人は、応募数という短期の成果と引き換えに、640万円の損失リスクを未来に積み立てているのかもしれません。

もう一つ、見落としやすい論点があります。早期離職が”宙に浮きやすい”のは、責任の線の引き方にも一因がある気がします。採用のゴールが「入社数」に置かれていると、入社した瞬間に人事の役割は一区切り。あとは現場に委ねられ、うまくいかなくても人事は「採ったのに」、現場は「採ってもらったのに」と、どちらの数字でもなくなる。ちなみに欧米では、採用の主役は配属先の管理職(hiring manager)で、人事は伴走役、という違いがよく語られます。裏を返せば、求人や面接の段階から現場を少し引き込み、”最初の半年”を人事と現場の共同ゴールにするだけで、埋められる隙間があるのかもしれません。

CANDIDATE VIEW | 候補者の椅子から

御社の求人を開いた候補者は、実はもう身構えています。「どうせ良いことしか書いていないだろう」と。だからこそ、大変な面が1つでも正直に書いてある求人に出会うと、この会社は信用できそうだと、逆に前のめりになります。

わたしたちが採用支援の現場で候補者と話していても、彼らが本当に知りたいのは「入社後、自分がどう働き、何につまずくのか」という具体像です。そこが想像できないまま入社を決めた人ほど、半年後に「思っていたのと違った」とつぶやくのを、何度も見てきました。

※候補者心理の描写は、統計ではなく採用支援の現場での実感にもとづくものです。

求人原稿や採用サイトの言葉を、「盛る」から「解像度を上げる」へ。HRブランディングとは、良く見せる技術ではなく、”らしさ”を正確に伝えて合う人とつながる営みだと、わたしたちは考えています。大変な面まで含めて選んでもらえた人は、入社後の景色に驚きません。

わたしたちCoachers自身も、日々”どこまで正直に、でも魅力的に伝えるか”を悩みながら手を動かしています。だからこそ、一緒に考えていけたらと思っています。

ACTIONS / 今日からできる3つ
主力求人に「大変なこと」を1行足す
今出している求人を1本開き、正直な”タフな面”を1つだけ書き足してみる。隠していた情報が、実は最強の信頼シグナルになります。
面接に「成功の定義」を聞く一問を加える
「入社後どうなれたら成功と感じますか?」を定番質問にする。期待のズレは、入社後に埋めようとすれば640万円、面接で埋めれば一問で済みます。すり合わせは早いほど安いのです。
内定後に現場と会う場を1回はさむ
配属予定チームとの面談や職場見学を、入社前に1回。小さな違和感を、入社後ではなく内定期間中に拾えます。
FAQ / よくある質問
Q. 求人に大変な面を書いたら、応募が減りませんか?
母数は減ることがありますが、減るのは主に「合わない人」です。早期離職者の44%が「事前にネガティブな情報も聞けていれば辞めなかった」と答えており、正直な情報は合う人の応募と定着を後押しします。数より、辞めない人に届くかで考えてみるのがおすすめです。
Q. 640万円という損失額は、どんな前提の数字ですか?
エン・ジャパンが、年収600万円ほどの人材が半年で早期離職した場合を試算したものです。採用費用だけでなく、在籍中の人件費(360万円)や教育・マネジメント費用まで含めた合計で、あくまで一つのモデルケースです。年収や職種で金額は変わりますが、「採用費以上に、在籍期間そのものが大きい」という構造は共通します。
Q. 情報開示だけで、早期離職は防げますか?
いいえ、それだけでは不十分です。離職理由の2位はハラスメント(30%)で、職場環境そのものの改善が必要なケースもあります。情報開示は「入口のミスマッチ」を減らす打ち手であり、入社後のオンボーディングと両輪で考えるのが現実的です。
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中村 尚人

中村 尚人 取締役 / ディレクター

新卒で株式会社日立製作所に入社。2021年にCoachers立ち上げメンバーとして参画。採用関連のクリエイティブやマーケティングの戦略設計、ディレクションを担当。

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