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会社の将来性で辞める人が増えている──30〜34歳男性14.9%、求人票に足す一行
「辞める理由なんて、だいたいお金でしょう」——採用の現場で、いちばんよく聞く言葉かもしれません。わたしたちCoachersも、そう思っていた時期があります。
ところが厚生労働省が2025年8月に公表した「令和6年雇用動向調査」で、転職者が前職を辞めた理由を前年と比べると、いちばん伸びていたのは給与ではありませんでした。男性で+2.2ポイント上がっていたのは「会社の将来が不安だった」。しかもこの理由が最も高いのは、30代前半でした。
転職して入職した人が前職を辞めた理由。厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」(2024年1年間・2025年8月公表)
「会社の将来性」で辞めた人は、この1年でどれだけ増えたのか
2024年に転職して入職した男性のうち、前の勤め先を辞めた理由に「会社の将来が不安だった」を挙げた人は7.4%でした。
前年は5.2%。2.2ポイントの上昇で、これは男性の項目のなかで最も大きな上げ幅です(内訳の分からない「その他の個人的理由」を除く)。
同じ期間、「給料等収入が少なかった」は8.2%→10.1%、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」は8.1%→8.6%の動きでした。
出典:厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」
ここは正直に添えておきたいのですが、「会社の将来が不安だった」は、辞めた理由の順位としてはトップではありません。
男性で最も多いのは「定年・契約期間の満了」14.1%、次いで「給料等収入が少なかった」10.1%です。
女性は最多が「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%、次が「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%でした。
将来不安は5.1%にとどまり、上げ幅も+0.5ポイント。男性ほどの動きではありません。
つまりこれは「みんなが将来性で辞めるようになった」という話ではありません。相対的に静かだった理由が、この1年でいちばん動いたという話です。
その控えめさも含めて見たほうが、たぶん使える数字になります。
増えているのは30代前半──年齢で分けると景色が変わります
「会社の将来が不安だった」を辞めた理由に挙げた割合は、年齢によって3倍近い開きがあります。
2024年の男性で最も高いのは30〜34歳の14.9%。全体の7.4%のちょうど2倍で、40代・50代よりも高い数字です。
会社の先行きを不安に思って動いているのは、長く在籍したベテラン層というより、これからのキャリアを組み立てる世代でした。
出典:同上/※バーは最大値を基準にした相対表示
女性は動き方が少し違います。20〜24歳の4.1%から30〜34歳で6.4%まで上がり、35〜39歳でいったん5.0%に下がります。
そこから40〜44歳7.5%・45〜49歳7.7%でピークを迎えます。男性のように30代前半で尖るのではなく、40代にかけてゆるやかに高くなる形です。
ライフイベントの重なり方が違えば、「この先どこで働くか」を考え直すタイミングも違う、ということかもしれません。
「将来性がない」は、業績が悪いという意味とは限らない
「会社の将来性」と聞くと、赤字や業界の縮小といった業績の話を思い浮かべやすいのですが、この数字はそう読めません。
もし業績不振が主な理由なら、その会社に長くいた40代・50代のほうが高く出るはずです。実際にはその逆で、30〜34歳が突出していました。
会社と働き手のあいだには、契約書には書かれていない期待のやりとりがある——雇用の研究では「心理的契約」という言葉で長く扱われてきた考え方です。
給与や勤務時間は契約書に書いてあります。けれど「この会社は5年後に何をしているのか」「そのとき自分はどんな仕事をしているのか」は、どこにも書かれていません。
書かれていないものは、結びようがありません。
WRITTENは契約書に書かれる労働条件、NOT WRITTENは明文化されない期待(心理的契約)。求人票と採用サイトで足せるのは後者です。
そう考えると、「将来が不安で辞めた」の少なくとも一部は、業績が悪かったというより、会社の行き先が言葉になっていなかったということかもしれません。
これは、業績のいい会社にも普通に起こります。そして、採用の入口でそのまま繰り返されます。
求人票にも採用サイトにも会社の行き先が書かれていなければ、候補者は前職と同じ不安を抱えたまま、面接に座ることになります。
会社紹介の欄に、次の型で1〜3文を足すところから始められます。中期経営計画のような体裁は要りません。
記入例は書き方を示すための架空の文面です。数字か固有名詞が1つ入っていることが、感触ではなく根拠として読んでもらえる分かれ目になります。
この3文を足すだけで、候補者が前職で判断できなかったことに、初めて答えが用意されます。
わたしたちが求人原稿や採用サイトのご相談をいただくとき、会社紹介の欄はたいてい「創業◯年」「従業員◯名」「売上◯億円」で埋まっています。
どれも本当のことですし、書いてあって困るものでもありません。ただ、そこに並んでいるのはすべて過去と現在で、これからの話が一行も入っていないことが、けっこうあります。
御社の求人票を開いた32歳の候補者は、いま前の会社を「この先が見えない」という理由で離れようとしている一人かもしれません。統計の上では、その年代がいちばん多いからです。
その人にとって、創業年数と従業員数は「前の会社にもあった情報」です。同じ不安をもう一度抱える会社かどうかは、そこからは読み取れません。
わたしたちが現場でよく聞くのは、「面接で会社の方向性を聞いたら、その場で考えながら話された」「役員によって言うことが違った」という声です。
壮大なビジョンが求められているというより、同じ話が同じ言葉で返ってくるかを見られているのかもしれません。逆に言えば、社内で一度そろえておくだけで届く種類の安心だと思います。
ここはHRブランディングそのものの話だと感じています。会社の行き先を言葉にする作業は、たいてい採用のためだけにやるものではありません。
けれど、いちばん最初に必要になるのは採用の場面です。求人広告の原稿を書こうとして「うちはこれからどこへ行くんだったか」で手が止まる——そこから会社の言葉が整い始めることは、実際によくあります。
なお、この調査が見ているのは2024年の1年間です。2026年のいまは数字がもう少し動いているかもしれません。ただ「候補者は書かれていないものを判断できない」という部分は、たぶん時期を問わず変わらないところだと思っています。
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」(2024年1年間が対象・2025年8月公表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html
- 同「3 転職入職者の状況」(表5 転職入職者が前職を辞めた理由別割合) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/dl/kekka_gaiyo-03.pdf
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