「AIを使える人がほしい」と言われて、求人票の応募要件に「生成AIの活用経験があれば尚可」と一行足したことはないでしょうか。わたしたちCoachersもよくご相談をいただきます。ただ、その一行を足したら応募が増えました、という話はあまり聞きません。
中途採用に関わる採用担当者・人事責任者1,017人への調査では、89.3%が「AIスキルを重視する」と答えていました。同じ調査で59.8%が「候補者は求める水準に達していない」とも答えています。重視されているのに、届いていない。この間に何が挟まっているのかを、一緒に見てみたいと思います。
89.3%
89.5%
59.8%
出典:JAC Recruitment「企業のAIスキルに関する調査」/調査2026年4月22〜23日・中途採用に関わる企業の採用担当者・人事責任者 n=1,017
見られているのは、技術力ではない
AI人材の採用で企業が重視しているのは、AIそのものを作る技術力ではなく、AIをどの業務にどう使うかを見極める力です。中途採用に関わる採用担当者・人事責任者1,017人への調査(JAC Recruitment・2026年4月実施)では、ハイクラス採用の89.3%がAIスキルを重視すると答えました。
同じ調査で挙がっていた「求めるAIスキル」は、次の3つでした。AIツールを日常業務で使えること。AIを活用すべき領域を見極められること。そして課題を設定し、構造化する力です。
3つとも、モデルを作る話ではありません。むしろ「どこに使うかを決める仕事」に寄っています。
出典:JAC Recruitment「企業のAIスキルに関する調査」・調査2026年4月22〜23日・n=1,017
背景には、AIを使うこと自体が珍しくなくなった事情があります。総務省の令和8年版情報通信白書(2026年7月公表)によれば、何らかの業務で生成AIを利用している日本企業は86.4%。2024年度の調査から大きく増えました。
使っているかどうかでは差がつかなくなった、ということだと思います。だから採用の場面でも、問いが「使えますか」から「どこに使いますか」へ動いた。そう読むと、先ほどの3つの力がしっくりきます。
なお、この調査を行ったJAC Recruitmentは管理職・専門職の紹介を手がける会社で、数字も同社が接している「ハイクラス採用」の話です。中小企業の一般職の募集がそのまま同じとは限らない点は、頭の隅に置いておきたいところです。
「水準に達していない」59.8%の読み方
AI人材の採用でいちばん引っかかるのは、ハイクラス候補者のAIスキルについて59.8%が「求める水準に達していない」と答えた数字です。重視している企業が9割近くいて、その6割が「まだ足りない」と言っている状態になります。
出典:JAC Recruitment「企業のAIスキルに関する調査」・調査2026年4月22〜23日・n=1,017
この数字は「市場にAI人材がいない」と読むこともできます。ただ、もう一つの読み方もある気がしています。
「求める水準」が言葉になっていないから、何を見ても届いていないように感じる、という読み方です。水準は、比べる対象があってはじめて測れます。作りたい状態が決まっていないと、目の前の候補者はいつまでも足りない人に見えてしまう。
つまりこれは、候補者側の不足だけの話ではなく、募集する側が「自社のどの業務をAIで変えたいのか」を決めきれていない構造の話でもあるのだと思います。人材市場を責めても動きませんが、こちらの決めごとなら今日から動かせます。
求める力を募集の言葉に置き換える3ステップ
AI人材の採用でまずやることは、応募要件に「AI」と書くことではなく、AIで変えたい業務を1つに絞ることです。対象が決まると必要なスキルは自然に絞れて、募集の言葉もそこから逆算できます。
3ステップで決めたことを、そのまま1文に入れると次のようになります。求人票の冒頭にも同じ形で置けます。
記入例は書き方を示すための架空の文面です。
どちらの例にも「AI経験3年以上」のような条件は入っていません。それでも、AIを業務に使ったことのある人が読めば、自分に向いた話かどうかはすぐ分かる文になっていると思います。
「AI人材を採る」という言い方は、便利なぶん中身が抜けやすい言葉だと感じています。わたしたちCoachersも、ご相談の最初に「その方に、入社してまず何をしてもらう予定ですか」と伺うことが多いのですが、そこで手が止まることは珍しくありません。決めていないのではなく、決める時間が取れていない、というのが実情だと思います。
御社の求人を開いた候補者の側に立ってみます。AIを業務に使ってきた人は、いま複数の会社から声がかかっている状態です。オファー年収に影響すると答えた企業が89.5%ある市場なので、条件だけを並べた求人は、比較の土俵にすら乗りにくいのではないかと思います。
わたしたちが現場でよく聞くのは、「AI活用と書いてあるけれど、入って実際に何をやらせてもらえるのかが読み取れない」という戸惑いのほうです。逆に言えば、変えたい業務と規模の数字が1行あるだけで、その人にとっては応募を決める材料になるのかもしれません。
ここはHRブランディングの話でもあります。何を任せたいかを言葉にする作業は、そのまま「うちはどんな会社か」を書く作業と重なるからです。求人広告の原稿を1本書き直すだけでも、社内で「で、結局どこを変えたいんだっけ」という会話が起きます。その会話のほうが、実は先に効いてくる気がしています。
AI人材の採用は、特別な採用ではないのだと思います。任せたい仕事を具体的に書く、という当たり前をもう一度やるだけで、届く相手はだいぶ変わるはずです。
- JAC Recruitment「企業のAIスキルに関する調査」(調査2026年4月22〜23日・中途採用に関わる企業の採用担当者・人事責任者 n=1,017) https://www.jac-recruitment.jp/market/knowhow/preparation/research-aiskill/
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」生成AIの業務利用(2026年7月公表) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd121130.html



