「人事は、わたし一人なんです」。中途採用のご相談で、この一言が少し申し訳なさそうに出てくることがあります。けれど数字を見る限り、それは例外ではありません。
『日本の人事部 人事白書2026』では、従業員100人以下の企業の59.6%が、人事部門メンバーの「大半が他業務との兼務」と答えています。人事を兼務で回すのは、100人以下の会社では多数派です。
兼務が前提なら、「全部ちゃんとやる」型の採用手順は最初から回りません。この記事では、ひとり人事が手放していい仕事と、手放してはいけない一点、そして現場の面接官に渡す1枚の型を置きます。
ひとり人事とは?どれくらい普通のことなのか
ひとり人事とは、採用・労務・教育といった人事業務を、実質1人で担っている状態を指す言い方です。公式な統計用語ではありません。
人数そのものを数えた調査ではありませんが、近い実態を測った数字があります。
『日本の人事部 人事白書2026』(2026年3月調査・のべ5,103社)では、従業員100人以下の企業の59.6%が「人事部門メンバーの大半が他業務との兼務」と回答しました。
全体では「大半が他業務と兼務」は28.0%。規模の小さい会社に偏って集まっています。
従業員1,001〜5,000人では60.6%が「全員が人事専任」。5,001人以上では「全員が専任」46.4%と「大半が専任(一部兼務)」50.7%を合わせて9割を超えます。
つまり、人事を兼務で回すかどうかは、本人の能力や段取りではなく、会社の規模でほぼ決まっています。
なぜ、最初に崩れるのが中途採用なのか
兼務で人事を回している会社では、中途採用がいちばん先に止まります。採用だけが、自分の都合で締め切りを決められない仕事だからです。
給与計算も入社手続きも、期日は決まっていますが、相手は社内にいます。中途採用だけは相手が社外にいて、しかも同時に他社とも話しています。
返信を1日置いた分だけ、別の会社が先に面接日を埋める。兼務の遅れは、判断の遅れではなく着手の遅れとして表に出ます。
手放していい仕事と、手放してはいけない一点
ひとり人事が最初に手放していいのは、「自分しか持っていない情報」が要らない仕事です。日程の打診、媒体への入稿、応募者への定型連絡は、型さえあれば誰でも回せます。
- 日程の打診と調整(文面を型にしておく)
- 求人媒体への入稿と更新
- 応募受付と書類の一次仕分け(条件を文章にしておく)
- 面接の当日運営(現場の管理職に渡す)
- 内定後の手続き連絡
逆に、手放してはいけないのは一点だけです。何を見て合否を決めるか、という評価軸をそろえること。
ここを渡すと、面接官の数だけ基準が増えます。ひとり人事の会社は面接官が現場の管理職になりやすく、軸がないまま任せると「いい人だった」と「ピンとこなかった」が並びます。
現場の面接官には何を渡すか
現場の管理職に面接を任せるとき、渡すのは質問リストではなく1枚の紙です。見るポイント3つ、今回は聞かない項目、当日の流れ。この3つが書いてあれば足ります。
質問リストを渡すと、面接官はそれを読み上げてしまいます。見るポイントだけを渡せば、聞き方は現場に任せたまま、判断の物差しだけがそろいます。
項目は3つまでにします。5つ並べた瞬間に、面接官は全部を薄く聞いて、どれも判断できないまま終わります。
①募集職種〈 〉/②見るポイント3つ〈 〉〈 〉〈 〉/③今回は聞かない〈 〉/④当日の流れ〈 分・内訳〉/⑤合否の伝え方と期限〈 〉
記入例(架空・従業員60名の食品卸):①法人営業・中途1名/②1)既存顧客を30社前後まとめて持った経験 2)値決めまで自分で踏み込んだ経験 3)配送や在庫の担当者と直接話せそうか/③業界経験の有無(未経験でも可とするため聞かない)/④45分(会社説明10分・相互の質問25分・条件確認10分)/⑤3営業日以内に人事からメールで連絡
ひとり人事の苦しさは、本人の段取り力の話として語られがちです。けれど実態は、採用の責任が人事という一点に集まっている構造の問題です。
欧米の企業では、採用の主役は配属先の管理職(hiring manager)で、人事はその進行を支える側に回ると繰り返し指摘されています。人事が一人しかいない会社なら、むしろこの形のほうが無理がありません。
候補者の側から見ると、ひとり人事の会社は「返信が遅い会社」に見えます。人事が兼務であることは、応募した人には見えません。
わたしたちが現場で見てきた候補者は、返信が遅れた会社を「たぶん落ちたのだろう」と解釈して、別の選考を先に進めていきます。
だから、速さは気合いではなく仕組みで返します。誰が面接を持つかを先に決めておけば、人事が会議に入っている日でも選考は前に進みます。
今日からできる3つ
- 面接を任せる相手を、職種ごとに1人決める
誰が面接を持つかを先に決めると、日程の候補出しが人事の仕事でなくなります。決めずにいると、選考の速さが人事の空き時間に縛られます。 - 見るポイントを3つに絞って、紙1枚にする
項目が増えるほど、面接官ごとの判断はばらけます。3つに絞ると「この人は2つ目が弱い」という具体的な会話ができるようになります。 - 一次連絡の締め切りを「翌営業日中」と決め、文面を先に作っておく
兼務の遅れは、判断ではなく着手で起きます。文面が用意してあれば、会議の合間の3分で送れます。
よくある質問
Q. ひとり人事でも、中途採用はできますか?
できます。従業員100人以下の企業では、人事部門メンバーの大半が他業務と兼務している会社が59.6%で、多くの会社が同じ条件で採用しています。全部を自分で抱えず、評価軸だけを手元に残すのが前提になります。
Q. 現場に面接を任せると、判断がぶれませんか?
見るポイントを3つに絞った紙を先に渡せば、ぶれ幅は小さくなります。判断がぶれるのは面接官が増えたときではなく、物差しが渡されていないときです。
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出典
『日本の人事部』「3割の企業で人事部門メンバーの大半が他業務と兼務」(人事白書2026 調査レポート)調査2026年3月3日〜31日・のべ5,103社/5,274人(『日本の人事部』正会員へのWebアンケート。従業員1〜100人区分の回答社数は非公表) jinjibu.jp
株式会社HRビジョン『日本の人事部 人事白書2026』発売のお知らせ(調査概要・2026年7月2日)jinjibu.jp



