最終面接まで進んだ方に、内定を出す前に辞退された。条件を下げたわけでも、仕事内容が途中で変わったわけでもないのに、気持ちだけが静かに冷めていた──採用担当なら、一度は覚えのある場面ではないでしょうか。
帝国データバンクが2026年7月に全国1万518社へ聞いた調査では、正社員が「不足している」と答えた企業は51.3%。候補者は、いま同時に何社からも声をかけられています。だとすると選考は、見極める場であると同時に、選ばれる場でもあるのかもしれません。
採用のアトラクトとは、候補者に自社の魅力と実態を伝えて「ここで働きたい」と思ってもらう働きかけのことです。
候補者を評価する「見極め」と対になる仕事で、求人票、スカウトや応募直後の連絡、面談・面接、オファーの4つの接点で行います。良いことを並べて口説くのではなく、大変なところも含めて具体的に渡し、候補者が判断するための材料の解像度を上げることを指します。
51.3%
67.1%
66.0%
28.8%
出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」2026年8月17日公表。調査期間2026年7月17〜31日、有効回答1万518社。
いま、どれくらい同じ人を採り合っているのか
帝国データバンクが2026年7月17〜31日に全国1万518社へ聞いた調査では、正社員が「不足している」と答えた企業は51.3%でした。前年の同じ月から0.5ポイント増えています。
半数の会社が「人が足りない」と言っている状態です。裏を返すと、いま転職を考えている一人の人に対して、複数の会社が同時に手を伸ばしているということでもあります。
ただ、その濃さは業種によってずいぶん違います。
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」有効回答1万518社
金融67.1%、建設66.0%、運輸・倉庫65.6%。この3業種では、3社に2社が正社員の不足を感じています。非正社員のほうは全業種で28.8%なので、いま逼迫しているのは主に正社員のほうです。
ここで見ておきたいのは、自社の数字ではなく同業他社の数字のほうかもしれません。この割合が高い業種ほど、候補者一人が受け取る「うちに来ませんか」の数が多い、と読めるからです。
同じ人を6割の会社が探している市場では、見極めの精度を上げるだけでは足りません。見極めた人に、残ってもらう必要があります。
採用のアトラクトとは何か
採用におけるアトラクトとは、候補者に自社の魅力と実態を伝えて「ここで働きたい」と思ってもらう働きかけのことです。「見極める」の反対側にある仕事、と言い換えてもいいかもしれません。
誤解されやすいのですが、アトラクトは「良いことを並べて口説く」こととは違います。むしろ逆で、良いところも大変なところも先に開示するほうが、入社後の離職が減ることが知られています。
この考え方には RJP(Realistic Job Preview/現実的職務予告) という名前がついています。半世紀ほど前から研究されてきた古い概念で、いまも繰り返し支持されている考え方です。
つまりアトラクトの中身は、盛ることではなく解像度を上げること。同じ「風通しがいい職場です」でも、誰が・いつ・どんな場面でそう感じたかまで書けているかで、受け取られ方が変わります。
面接官の話し方の巧拙の問題に見えて、実はそうではないことも多いように感じています。どの接点で、誰が、何を渡すのかが決まっていないという設計の問題であることが少なくありません。
設計の問題であれば、個人の資質に頼らず直せます。次の4つの接点で見ていきます。
アトラクトが効く4つの接点
アトラクトが効くのは面接の場だけではありません。求人票、スカウトや応募直後の連絡、面談・面接、オファーの4つが、候補者の気持ちが動く接点です。
多くの会社では、このうち3番目にだけ力が入っています。前後が空いている分、面接1回にかかる負荷が大きくなりすぎているのかもしれません。
スカウトの返信が伸びないとき、原因が文面ではなく文面の外側にあることがあるのも、同じ理由です。
4つ全部を一度に整えなくても大丈夫です。いま自社でいちばん空いている接点を1つ選ぶところからで、十分に変わります。
アトラクトというと面接の技術の話に聞こえますが、渡すものが手元にないと、その場で急に出てくることはありません。求人票にも採用サイトにも書いていないことを、面接官だけが即興で言葉にするのは、かなり無理のある頼み方だと感じています。
御社の面接を終えて、電車に乗った一人の候補者を想像してみてください。その日のうちに、たいてい他社の選考も進んでいます。手元に残っているのは、面接で聞いた話のうち思い出せる分だけです。
わたしたちが現場でよく聞くのは、「良い会社だと思ったけれど、家族に説明できなかった」という声です。良さが伝わらなかったのではなく、持ち帰れる形になっていなかった、ということなのかもしれません。
わたしたちCoachersも、求人広告の原稿や採用サイトをつくるとき、いちばん時間をかけるのはこの「持ち帰れる形にする」ところです。HRブランディングという言い方をしていますが、やっていることは自社の言葉を揃えることに近いと思っています。
言葉が揃っていれば、面接官が誰であっても同じ会社の話ができます。アトラクトが属人的にならないのは、たぶんそこからです。
- 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」2026年8月17日公表 https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260817-laborshortage202607/



