採用業務のAI活用、導入企業の53.3%は工数が減らず──AIと人の線の引き直し方
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採用業務のAI活用、導入企業の53.3%は工数が減らず──AIと人の線の引き直し方

Branding, 2026.07.29 By 中村 尚人

 

スカウトの文面は、AIが3分で書いてくれるようになりました。求人原稿のたたき台も、面接の質問案も。それなのに、今週の退勤時間は先月とあまり変わっていない——もしそう感じているとしたら、それはご自身の使い方が下手だから、ではないかもしれません。

株式会社TalentXが2026年4月に実施した調査(従業員500名以上の企業の人事担当者213名)では、採用にAIを導入した企業のうち、導入後も工数が「変わらない、もしくは増えた」と答えた人事担当者が53.3%にのぼりました。半数が減らせている一方で、半数は減っていない。この差はどこから生まれているのでしょうか。

同じ調査には、もう一つ気になる数字があります。候補者の側も、企業のAIの使い方を見ている、という結果です。今日は「AIと人のあいだに、どこで線を引くか」を、採用担当者の実務と候補者の目線の両方から一緒に考えてみたいと思います。

KEY DATA / この記事の数字
採用活動にAIを導入している企業(従業員500名以上・人事担当者の回答)
58.3%
AI導入後も採用の工数が「変わらない・増えた」と答えた人事担当者
53.3%
「AIに任せる業務」と「人が担う業務」の役割分担が不明確な企業
67.9%
工数削減のためだけのAI活用が見えると志望度が下がる、と答えた中途採用候補者
59.8%

出典:株式会社TalentX「採用活動におけるAI活用に関する実態調査 2026」(2026年4月28日実施・人事担当者213名/中途採用候補者221名)

なぜ、採用にAIを入れても工数が減らないのでしょうか

結論から言えば、ツールの性能よりも「どこを任せるかが決まっていない」ことのほうが大きく効いているようです。同じ調査では、AIと人の役割分担が不明確な企業が67.9%、AI活用の投資対効果(ROI)を定量的に把握していない企業が51.3%。任せる範囲も、効いたかどうかの物差しも、決めないまま走り出している企業が多数派だった、という結果でした。

KEY METRIC / AI導入後の採用工数
53.3%
AIを導入した企業の人事担当者のうち、導入後も工数が「変わらない・増えた」と答えた割合。裏を返せば残りの46.7%は削減できているので、「AIは効かない」という話ではなく、効く企業と効かない企業がきれいに二分していると読むほうが実態に近そうです。

出典:TalentX「採用活動におけるAI活用に関する実態調査 2026」(2026年4月28日実施・人事担当者213名)

工数が減らない状態を、担当者のスキル不足として語られてしまうことがあります。けれど67.9%という数字を見ると、これは個人の習熟の話というより、「誰が何を担当するか」という設計が空白のまま道具だけが増えた構造の問題に見えてきます。線が引かれていないと、AIが出したものを人が全部見直すことになり、結局チェック工数が上乗せされる。減らないのは当然かもしれません。

なお、この調査の対象は従業員500名以上の企業です。数十名規模の会社ではそもそも採用担当が一人ということも多く、事情はそのまま重なりません。ただ「線を引かないまま導入すると、二重チェックが生まれる」という構図は、規模が小さいほど一人に集中しやすい話でもあります。

AIに任せる仕事と、人が担う仕事は、どこで線を引けばよいのでしょうか

ひとつの引き方は、「時間を削るために使う」のか「候補者の理解を深めるために使う」のかで分けてみることです。前者は自動化、後者は人の力の拡張(オーグメンテーション)と呼ばれることがあります。同じツールでも、どちらの目的に置くかで、生まれるものがかなり変わってきます。

COMPARISON / 同じAIでも、置き場所で変わる
削るために置く
量産の道具として使う
スカウトを一括生成して送信数を増やす。求人原稿は雛形のまま量産。空いた時間は他の業務へ。候補者に届く情報は「どこかで見た文章」に近づき、返信率も面接での温度も上がりにくくなります。
深めるために置く
下ごしらえの道具として使う
職務経歴の要約・候補者ごとの論点整理・面接質問のたたき台までをAIに任せ、浮いた時間を「一人ひとりに合わせた一文」と「面接での対話」に戻す。人が担うのは、理解と意思決定の部分です。

大事なのは、線を引いたうえで「浮いた時間の行き先」を先に決めておくことだと感じています。行き先を決めずに削ると、時間は他の業務にすっと吸い込まれ、採用体験は何も変わりません。逆に「一次面接の前に15分だけ電話する」のような使い道を先に決めておくと、削減がそのまま候補者への手当てに変わります。

候補者は、企業のAI活用をどう受け止めているのでしょうか

同じ調査では、転職を検討している中途採用候補者221名にも聞いています。工数削減のためだけのAI活用が見えると志望度が下がると答えた候補者は59.8%。一方で「自分を深く理解した対話」を期待する候補者は40.1%でした。AIそのものを嫌っているのではなく、「自分は処理されている」と感じる瞬間に気持ちが離れる、という読み方ができそうです。

この感覚は、以前ご紹介したAI面接に対する転職者の反応(1次はOK・最終は人と)とも重なります。効率化そのものへの拒否感ではなく、「どの場面で人が出てくるか」を候補者は見ている。線引きは社内の業務設計であると同時に、候補者から見える会社の姿勢でもあるようです。

C
Coachers編集部
HRブランディングの観点から

わたしたちCoachersも、原稿のたたき台づくりや情報整理でAIを日常的に使っています。そのうえで感じているのは、AIが得意なのは「整えること」で、苦手なのは「その会社にしかない具体を持ってくること」だということです。具体は、現場に聞きにいかないと出てきません。

CANDIDATE VIEW | 候補者の椅子から

受信箱に、今週3通目のスカウトが届いています。どれも文章はきれいで、どれも自分の経歴に触れているようで触れていない。そんななかで一通だけ、担当プロジェクトの名前と「ここが弊社の◯◯と重なると思いました」の一文が入っていたら、返信するのはおそらくその一通です。候補者が見ているのはAIを使ったかどうかではなく、自分のことを読んだ形跡があるかどうかなのかもしれません。

面接でも同じことが起きている気がしています。準備された質問がなめらかに流れていくほど、「自分でなくてもよかったのでは」という感覚が残る。逆に、経歴の一行に引っかかって深掘りしてもらえた面接は、志望度が上がったという声をよく聞きます。AIで浮かせた時間の使いどころは、たぶんここにあります。

HRブランディングの視点で見ると、AIの導入は「効率化の話」であると同時に「会社の見え方の話」でもあります。求人原稿にしても、AIが整えた一般的な言葉だけで埋まっている会社と、現場の具体が一行入っている会社では、候補者が受け取る誠実さの量がまるで違ってきます。

だからこそ、線を引くときの問いは「どこまで自動化できるか」ではなく、「どこに人が出るか」から始めるほうがよさそうです。忙しい採用担当の方ほど前者から考えたくなりますし、わたしたちも例外ではありません。それでも、後者から決めたほうが結果的に候補者に届くものが残る——そんなふうに感じています。

ACTIONS / 今日からできる3つ
「AIに任せる/人が出る」を1枚の表にして共有する
調査では67.9%の企業で役割分担が不明確でした。線がないとAIの出力を人が全部見直すことになり、削ったはずの工数がチェックに戻ってきます。
浮いた時間の行き先を、削る前に決めておく
「一次面接前に15分電話する」のように使い道を先に決めると、自動化が候補者体験の底上げ(人の力の拡張)に変わります。決めないと時間は他業務に吸われます。
AIが書いた文面を「固有名詞の数」で見直す
候補者の59.8%は、効率化のためだけのAI活用が見えると志望度が下がると答えています。社名・製品名・その人の経歴への言及が1つも無ければ、送る前に一行足してみませんか。
 
FAQ / よくある質問
Q. AIを導入したのに採用の工数が減りません。使い方が悪いのでしょうか?
ツールの習熟以前に、任せる範囲が決まっていないケースが多いようです。TalentXの調査では、AIと人の役割分担が不明確な企業が67.9%、ROIを定量的に把握していない企業が51.3%でした。線が無いままだとAIの出力を人が全量チェックすることになり、工数が上乗せされます。
Q. AIに任せてよい業務と、人が担うべき業務の線引きの目安は?
「下ごしらえ」と「理解・意思決定」で分ける考え方があります。経歴の要約、候補者ごとの論点整理、質問案のたたき台まではAIが得意な領域です。一方で、その人固有の経験を掘る対話や合否の判断は人が担う——という置き方です。
Q. 採用でAIを使っていることは、候補者に知られないほうがよいのでしょうか?
隠すかどうかより、何のために使っているかが伝わるかどうかのようです。同調査では、工数削減のためだけの活用が見えると志望度が下がる候補者が59.8%いた一方、40.1%は「自分を深く理解した対話」を期待していました。理解を深めるために使っていると分かる形なら、マイナスにはなりにくいと考えられます。
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REFERENCES
  • 株式会社TalentX「<AIネイティブ採用調査2026>採用AIを導入する企業の約53.3%が「機能していない」実態、採用力を高める鍵は「候補者体験」」(2026年6月18日公開/調査は2026年4月28日実施・人事担当者213名・中途採用候補者221名) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000268.000036924.html
  • 株式会社TalentX ニュースリリース(同調査の自社掲載ページ) https://talentx.co.jp/news/p260618

中村 尚人

中村 尚人 取締役 / ディレクター

新卒で株式会社日立製作所に入社。2021年にCoachers立ち上げメンバーとして参画。採用関連のクリエイティブやマーケティングの戦略設計、ディレクションを担当。

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