試用期間を求人票にどう書くか──候補者が身構える3点と、伝わる直し方
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試用期間を求人票にどう書くか──候補者が身構える3点と、伝わる直し方

Branding, 2026.08.13 By 中村 尚人

求人票の、ずいぶん下のほう。仕事内容でも給与でもなく、条件欄にぽつんと置かれた「試用期間3ヶ月」という一行があります。書いた側は事務的に埋めただけの欄かもしれません。でも、応募ボタンを押す直前の候補者が、いちばん何度も読み返しているのは、案外この一行だったりします。

「3ヶ月って、その間は何が違うんだろう」「給与は下がるのかな」「そもそも、落とされることがあるのか」。書いていないことは、たいてい悪いほうに想像されます。いま働いている会社を辞めて移ってくる人なら、なおさらです。

試用期間は、法律上どう位置づけられているのでしょうか。そして求人票には、どこまで書けばいいのでしょうか。隠すのでも脅すのでもない書き方を、一緒に整理してみたいと思います。

試用期間は「会社が見極めるための期間」と思われがちですが、法的には本採用後と同じ労働契約が始まっている期間で、候補者の側も会社を見極めています。
職業安定法にもとづく明示ルールでは、試用期間中の労働条件が本採用後と異なる場合、求人の段階で試用期間中と本採用後のそれぞれを明示することが求められています。
求人票の試用期間欄で応募をためらわせているのは、期間の長さそのものより「その間に何が起きるのかが書かれていないこと」であることが多いように感じています。

試用期間は、会社が見極めるための期間なのでしょうか

試用期間とは、採用した人が自社で働いていけるかを一定期間かけて確かめる制度で、多くの会社が3ヶ月から6ヶ月ほどで設定しています。ただ、ここでよく起きるすれ違いがあります。会社側は「見極める期間」と捉えているのに対し、法的な位置づけはもう少し違うところにあります。

労働法の議論では、試用期間つきの採用は「解約権留保付労働契約」という言葉で説明されることが多くあります。少し硬い言葉ですが、意味はシンプルで、労働契約はもう始まっていて、会社に留保されているのは解約する権利のほうだ、という整理です。つまり「まだ正式に入社していないお試し期間」ではなく、すでに入社している人に対して、例外的な余地が残されている状態、というほうが近い。この名前をひとつ知っているだけで、試用期間の設計は少し変わってくる気がしています。

MYTH vs FACT / 試用期間の位置づけ
MYTH
試用期間は会社が一方的に見極める期間で、合わなければ気軽に見送れる。
FACT
労働契約はすでに始まっています。本採用の見送りは通常の解雇より広く認められうると説明されますが、自由にできるわけではないと繰り返し指摘されています。判断に迷う場面では社会保険労務士や弁護士に確認するのが安全です。
MYTH
見極めているのは会社の側だけ。
FACT
同じ期間、候補者も会社を見極めています。前職を辞めて入ってきた人にとって、最初の3ヶ月は「ここで続けられそうか」を確かめる時間でもあります。

この双方向性に気づくと、試用期間の運用は「落とすかどうかを決める3ヶ月」から「お互いに確かめ合う3ヶ月」に変わります。そして求人票に書くべきことも、自然と変わってきます。会社が何を見るかだけでなく、その間に会社が何を提供するのかを、同じ分量で書けるようになるからです。

求人票の試用期間欄には、どこまで書けばいいのでしょうか

求人票で試用期間に触れるとき、最低限そろえたいのは「期間」「その間の労働条件」「本採用後との違い」の3点です。これは書いたほうが親切、という次元の話ではありません。職業安定法にもとづく労働条件等の明示ルールでは、試用期間中の労働条件が本採用後と異なる場合、試用期間中と本採用後のそれぞれの労働条件を明示することが求められています。給与や待遇に差をつけているのに求人票が本採用後の条件だけを載せている状態は、ルールの面からも見直したいところです。

加えて2024年4月からは、すべての労働者について「就業場所・業務の変更の範囲」の明示が必要になりました。試用期間の話と直接は重なりませんが、入社前に伝える情報の解像度を上げる方向に、ルール全体が動いていることは押さえておきたいと思います。求人票を「募集の告知」ではなく「入社前の説明資料」として作り直す、という感覚に近いかもしれません。

COMPARISON / 試用期間欄の書き方
よくある書き方
試用期間3ヶ月(条件は応相談)
期間だけがあり、その3ヶ月に何が起きるのかが書かれていない状態です。読んだ人は空白を自分で埋めるので、「給与が下がるのかも」「見送られることがあるのかも」と、たいてい厳しいほうに想像が振れます。
伝わる書き方
期間・条件・その間にやることまで書く
「試用期間3ヶ月/給与・待遇は本採用後と同じ」「月1回、上長と振り返りの時間を設けています」まで書く。条件に差がある場合は、その差もそのまま書きます。正直に書いたほうが、候補者は落ち着いて読めます。

なお「差があるなら隠したほうが応募は増えるのでは」と迷う場面もあると思います。ただ、入社後に知らされた条件差は、そのまま早期離職の理由になりやすい。入口で減る応募より、入社後に失う一人のほうが、たいてい高くつきます。採用にかけた費用も、受け入れた現場の時間も、まとめて戻ってこないからです。

今日から直せる3ステップ

大がかりな見直しは要りません。自社の求人票を1枚開いて、条件欄まで下がるところから始められます。順番はこの3つです。

1
事実を突き合わせる——就業規則と求人票がずれていないか
就業規則の試用期間の条文と、いま出ている求人票の記載を並べて読みます。期間の長さ、その間の給与・手当・有給の扱いに差があるかを確認し、差があるなら何がどう違うのかを一度書き出しておきます。ここが曖昧なままだと、この先の2つは書けません。
2
差があるならそのまま書く——無い場合も「同じです」と書く
条件差があるなら、試用期間中と本採用後の両方を明示します。差が無い会社も多いのですが、その場合は書かずに済ませず「試用期間中も給与・待遇は本採用後と同じです」と一文を足す。差が無いことは、書かなければ伝わりません。
3
会社側がやることを1行足す——見極められる側の不安に応える
「最初の3ヶ月は、週1回30分の1on1で困りごとを聞きます」「1ヶ月目は前任者が横についてから引き継ぎます」など、その期間に会社が提供するものを1行だけ書き足します。判定される期間ではなく、立ち上がりを支える期間だと伝わります。
C
Coachers編集部
HRブランディングの観点から

求人票の条件欄は、いちばん後回しにされやすい場所だと感じています。仕事内容や募集背景には何度も手を入れるのに、試用期間の行だけは何年も前のテンプレートのまま、ということは珍しくありません。わたしたちCoachersも、原稿を書く仕事をしていながら、条件欄の一行に候補者がどれだけ時間をかけているかを、つい見落としそうになります。

CANDIDATE VIEW | 求職者目線

御社の求人票を開いて、条件欄までスクロールした一人の候補者を想像してみます。その人はいま働いていて、辞めるかどうかを決めかねています。「試用期間3ヶ月」の一行を読んだとき頭をよぎるのは、たぶん制度の話ではなく生活の話です。前の会社を辞めた後で、この3ヶ月に何かあったらどうなるのか。そこに答えが書いていなければ、応募は「もう少し考えよう」に変わるかもしれません。

わたしたちが現場でよく聞くのは、面接の終盤に遠慮がちに「試用期間中って、条件は変わりますか」と尋ねられる場面です。聞けた人はまだいいほうで、聞けないまま候補から外している人のほうが、おそらく多いのだと思います。求人票に一文あるだけで、その質問をしなくて済む人が増えるのではないでしょうか。

わたしたちがHRブランディングという言葉で考えているのは、こういう細部の話でもあります。立派なメッセージを掲げることより、条件欄の一行に誠実さが出ているかどうか。求人広告の原稿を見直すとき、いちばん反応が変わるのは、キャッチコピーではなく条件欄だったりします。

試用期間は、会社が相手を試す期間であると同時に、候補者から会社が試されている期間でもあります。どちらの視線も入っている求人票は、読んだときの手ざわりが少し違う。まずは1枚、条件欄まで下がって読み返してみませんか。

ACTIONS / 今日からできる3つ
いま出ている求人票の条件欄を、声に出して読んでみる
書き手は文脈を知っているので黙読だと違和感に気づけません。声に出すと「この3ヶ月、何が起きるんだろう」という空白が耳で分かります。読み手の空白は、たいてい不安で埋まります。
試用期間中と本採用後の条件差を、一覧にして書き出す
差があれば求人の段階でそれぞれ明示することが職業安定法の明示ルールで求められています。差が無いなら、無いと書けます。どちらにしても、まず自社の事実を確定させるのが先です。
「その3ヶ月に会社がすること」を1行だけ足す
試用期間は双方向の期間なので、会社側の約束が1つ書かれているだけで意味合いが変わります。1on1でも同行でも、いま実際にやっていることをそのまま書けば十分です。
FAQ / よくある質問
Q. 試用期間は何ヶ月にするのが一般的ですか?
3ヶ月から6ヶ月で設定している会社が多く見られます。法律で長さが決まっているわけではありませんが、必要以上に長い期間は、候補者側から見ると不安定な状態が続くことを意味します。「何を確かめるために、その長さが必要なのか」を説明できる範囲に収めるのがひとつの目安になると思います。
Q. 試用期間中の給与を本採用後より低く設定してもよいのでしょうか?
条件に差を設けること自体はありえますが、その場合は求人の段階で試用期間中と本採用後のそれぞれの労働条件を明示することが、職業安定法にもとづく明示ルールで求められています。最低賃金を下回らないことも当然の前提です。いちばん避けたいのは、差があるのに求人票が本採用後の条件だけを載せている状態です。
Q. 「試用期間あり」と書くと、応募が減ってしまいませんか?
試用期間があること自体は多くの会社で一般的なので、書いたから避けられるというより、書き方で受け取られ方が変わるという感覚に近いと感じています。期間だけが置かれていると想像で埋められますが、条件と会社側の関わり方まで書かれていれば、読み手は落ち着いて判断できます。
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中村 尚人

中村 尚人 取締役 / ディレクター

新卒で株式会社日立製作所に入社。2021年にCoachers立ち上げメンバーとして参画。採用関連のクリエイティブやマーケティングの戦略設計、ディレクションを担当。

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