採用ペルソナは、作った時点ではまだ何の役にも立ちません。効き始めるのは、それを誰かに渡したときからです。
だから使われなくなるのは、担当者が怠けたからではありません。作る人と使う人が違うまま、条件を足した一枚が机の中に残るからです。
この記事では、実在の1人から逆算する5項目と、現場と目線をそろえる場面を記入例つきで示します。副業・兼業の形での採用に動いた企業が12.2%まで増えたいま、決め打ちにしたくないのは雇用形態の欄です。
採用ペルソナとは?「求める人物像」と何が違うのか
採用ペルソナとは、自社が採りたい候補者を、実在する1人分の具体さまで落とした人物像のことです。
「求める人物像」との違いは、細かさではなく用途にあります。求める人物像は合否を決めるための要件の一覧で、採用ペルソナは求人票やスカウト文の言葉を決めるための材料です。
だからペルソナに「協調性がある」と書いても、書ける文面は増えません。書くべきは、その人が前職で何に詰まり、何を見て転職先を選んだかという具体のほうです。
なぜ、作ったペルソナは使われなくなるのか
使われないペルソナには、共通の症状が2つあります。条件を盛りすぎて誰も該当しないことと、作った人以外が中身を知らないことです。
前者は、関係者から出た希望をすべて足し算すると起きます。年齢も経験年数も資格も人柄も満たす一人は、たいてい市場にいません。
後者は担当者の問題ではなく、構造の問題です。作る人(人事)と使う人(現場の面接官、求人原稿の担当)が違うまま配られた一枚は、読まれずに終わります。
実在の1人から逆算する、5つの項目
採用ペルソナを外さずに作る近道は、架空の人物を想像するのではなく、いま自社で活躍している実在の1人から逆算することです。
理屈は単純で、実在の1人からなら「書けることしか書けない」からです。盛れないぶん、そのまま求人票に写せる言葉が残ります。
- 基にする1人を名指しで決める
職種と入社年次まで特定します。「30代の即戦力」のような枠から始めると、結局は条件の足し算に戻ってしまいます。 - その人が転職したときの状況を書く
前職で何に詰まっていたか、同時にどんな会社を比較していたか。ここが求人票の「募集背景」を書く材料になります。 - 「他社では得られない」と本人が言う点を、言葉のまま写す
要約すると一般論に戻ります。原文のまま置いておくと、求人票の一行目にそのまま使えます。 - 選考中に不安だったことを聞き出す
候補者の不安は、入社後のギャップの前触れとして現れます。先に出しておけば、面接で確かめる質問に変えられます。 - 雇用形態と働き方の前提を書き、外せるかどうかを添える
5つのうち、ここだけは決め打ちにしません。理由は次の節で扱います。
「正社員・フルタイム」の欄だけは決め打ちにしない
採用ペルソナの雇用形態の前提は、一度も検証されないまま「正社員・フルタイム」で固定されがちです。
リクルートワークス研究所の中途採用実態調査では、副業・兼業などの形態での人材獲得に「既に取り組んでいる」企業は12.2%でした。2020年度上半期の4.7%から、5年で約2.6倍です。
「取り組む予定はない」が8割。動いている企業は少数だが、5年で4.7%→12.2%と増えてはいる。
一方で「取り組む予定はない」は80.1%です。大半は動いていないので、無理に広げる必要はありません。ただ、従業員5〜299人の企業に限れば「既に取り組んでいる」は13.4%と全体より高く、埋める前に一度だけ疑う価値はあります。
現場と目線をそろえるのは、いつか
採用ペルソナを現場とそろえる場面は、作り終えたときではなく、募集ごとに3回あります。
目的は合意を取ることではありません。食い違いを見つけることです。そろっていない点が分かれば、面接で確かめる質問に置き換えられます。
- 求人票を公開する前に、現場の1人と読み合わせる
- 一次面接の前に、面接官へ「今回どの1人を基にしたか」を渡す
- 見送りが3件続いたときに、どの項目で外れたかを1行だけ残す
実際に埋めるとどうなるか。建設会社を想定した記入例を、型といっしょに置きます。
①基にした1人:〈職種/入社年次・年齢〉 ②転職したときの状況:〈前職で詰まっていたこと/同時に比較した会社〉 ③他社では得られないと本人が言う点:〈本人の言葉のまま〉 ④選考中に不安だったこと:〈本人の言葉のまま〉 ⑤雇用形態と働き方の前提:〈形態・勤務地・稼働〉+〈外せるか:可/不可とその理由〉
記入例(架空):①施工管理/中途入社3年目・34歳 ②前職は年間の担当現場が12件で、1件に関われる時間が取れなかった。同規模のゼネコン2社と設備系の専門工事会社1社を比較 ③「着工前の打ち合わせから入れるので、図面に自分の意見が残る」 ④「所長がどこまで任せてくれるのか分からなかった」 ⑤正社員・現場は都内・直行直帰可/勤務地は不可(現場が固定のため)、稼働は週4日の相談が可能
採用ペルソナが「使われない一枚」になるのは、精度の問題ではなく体制の問題です。作る人と使う人が分かれているかぎり、書き足すほど読まれなくなります。
候補者の側から見ると、ペルソナという書類は一度も目に入りません。目に入るのは、そこから出てきた求人票の一行目と、面接官の最初の質問だけです。私たちが現場で見てきた候補者は、この2つが食い違う会社を途中で降ります。
項目を5つに絞るのは、渡したときに読み切れる長さにするためでもあります。精度を上げるより先に、渡す相手を決める。効き始めるのは、たいていその順番にしたときです。
今日からできる3つ
- 活躍している1人を名指しで決める
「30代・即戦力」から始めると、条件の足し算に戻ります。実在の1人からなら書けることしか書けないので、盛りようがありません。 - その1人に15分だけ聞く
聞くのは「転職時に比較した会社」と「選考中に不安だったこと」の2つだけ。どちらもRJP(現実的職務予告)で先に開示しておく材料そのものです。 - 求人票を出す前に、現場の1人と読み合わせる
目的は合意ではなく食い違いの発見です。ここを飛ばすと面接で別の基準が走り、通過者の顔ぶれがぶれます。
よくある質問
Q. 採用ペルソナと「求める人物像」は、どちらを先に作りますか?
求める人物像を粗く置いてから、ペルソナで1人分に落とすと手戻りが少なくなります。順番が逆だと、1人の事情をそのまま要件に昇格させてしまうことがあります。
Q. 年齢や家族構成まで書く必要はありますか?
求人票やスカウト文の言葉が変わる項目だけで足ります。書いても文面が変わらない項目は、埋めるほど読まれなくなるので外してかまいません。
Q. 現場と食い違ったら、どちらに合わせますか?
どちらにも寄せず、食い違った点を「選考で確かめる質問」に置き換えます。合意を急ぐと、確かめないまま入社後に持ち越すことになります。
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出典
リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2026年度見通し、2025年度上半期実績 正規社員)」2026年2月9日公表・調査期間2025年10月1日〜11月7日・従業員規模5人以上の全国の民間企業8,200社を対象、回収4,110社(副業・兼業の設問はn=4,071) works-i.com



