「一身上の都合により、辞退させていただきます」。中途採用の内定辞退は、この一文だけで届くことが少なくありません。理由を聞き返しても、本音が返ってくるとは限りません。
キッカケエージェントが2026年8月に公表した調査では、二次面接以降で選考を辞退したITエンジニアのうち、本当の決め手をすべて正直に企業へ伝えた人は26.8%でした。内定の手前の辞退を聞いた調査ですが、理由が届かない辞退を会社はどう防げばいいのでしょうか。
この記事では、内定辞退の防止を「辞退理由を聞く」から「承諾の前に先に渡す」へ切り替える考え方と、中途採用で渡す4つの情報、それを並べた接点表の型を紹介します。
中途採用の内定辞退は、なぜ防ぎにくい?
中途採用の内定辞退が防ぎにくいのは、候補者が辞退の本当の理由を企業に伝えないことが多く、会社の手元に直す材料が残らないからです。
内定辞退とは、内定を受けた候補者が、承諾の前か後に入社を取りやめることです。防止策を考えるとき、多くの会社はまず「なぜ辞退したのか」を知ろうとします。
ところが、先の調査でこの設問に答えた198名のうち、本当の決め手をすべて伝えた人は26.8%でした。一部だけ伝えた人が41.4%、別の理由だけ伝えた人が14.6%、理由を伝えずに辞退した人が15.2%です。

本当の決め手をすべて伝えた人は、3割に届きません。一部だけ・別の理由だけ・理由なしを合わせると71.2%です。
この調査は内定の手前、二次面接以降の辞退を聞いたもので、対象もITエンジニアに限られます。それでも、辞退の本音が会社に届きにくい構造は、内定後も変わらないと私たちは現場で見てきました。
すべては伝えなかった141名に理由を聞くと、1位は「角が立ったり、気まずくなるのを避けたかったから」48.2%でした。「企業側から、具体的な理由を聞かれなかったから」は10.6%にとどまります。聞けば返ってくる、とは限らないということです。
内定辞退を防ぐには、承諾の前に何を渡す?
中途採用の内定辞退を防ぐには、候補者が承諾を迷う材料を、聞かれる前に会社から渡しておくことです。理由が返ってこない以上、辞退の後で直すより、承諾の前に埋めるほうが手を打てます。
何を渡すかの手がかりも、同じ調査にあります。企業への改善要望の最多は「業務内容や役割の具体的な説明」38.5%で、「求人票と実態のズレを事前に解消」28.1%、「配属予定チームのメンバーや雰囲気の事前共有」22.6%が続きました。
- 入社後3か月の仕事と役割
最初の3か月に何を任せ、何を期待するかを具体的に渡します。改善要望で最多の38.5%が求めていたのがここで、「幅広くお任せします」では比べる材料になりません。 - 条件の内訳と決まり方
提示額の内訳に加えて、昇給の時期と評価の決まり方まで渡します。辞退の決め手の1位は年収・待遇でした。金額だけだと、他社の提示額と数字だけで比べられてしまいます。 - 求人票と違う点
選考中に分かった、求人票と実際が違う点を会社から先に伝えます。後から候補者が気づいたズレは、条件そのものより会社への信頼を下げやすいと、私たちは現場で見てきました。 - 配属チームの顔ぶれ
一緒に働く上長と同僚が誰で、どんな1日を過ごしているかを渡します。人事の説明だけでは、入社後の毎日が想像しにくいからです。
条件と役割をまとめて伝える場としては、オファー面談が使えます。ただ、1回の面談で4つすべてを渡しきるのは難しく、承諾期限までの数日に分けて渡すほうが現実的です。
内定から承諾までの接点表はどう作る?
内定から承諾までの接点表とは、内定通知から承諾期限までに、いつ・誰が・何を渡し、候補者から何を聞くかを1枚に並べた表です。
作るときのポイントは2つあります。1つ目は、渡す人を人事だけにしないことです。役割は配属先の上長が、チームの様子は同じチームの社員が話すほうが、面接の内容とずれません。
2つ目は、聞くことを「辞退しますか」にしないことです。本音は直接は返ってきにくいので、「想像と違った点」「まだ決めきれない点」のように、次に渡す材料を決めるための問いにします。
①内定通知の当日/〈人事〉が渡す:〈条件の内訳と昇給の決まり方〉/聞く:〈他社と比べて気になる条件〉
②〈2〉日目まで/〈配属先の上長〉が渡す:〈入社後3か月の仕事〉/聞く:〈想像と違った点〉
③〈4〉日目まで/〈同じチームの社員〉が渡す:〈チームの顔ぶれと1日の流れ〉/聞く:〈入社前に話しておきたい人〉
④承諾期限の〈前日〉/〈人事〉が渡す:〈求人票と違う点の一覧〉/聞く:〈まだ決めきれない点〉
記入例(架空):法人営業の中途採用で、承諾期限を内定から7日後に置いた場合。①当日、人事が月給の内訳と年1回の昇給時期を説明。②2日目、営業課長が「最初の3か月は既存顧客20社の引き継ぎ」とオンラインで15分話す。
③4日目、入社2年目の営業が同行の1日を話す。④6日目、人事が「求人票では転勤なしだが、2年後に支店立ち上げの打診がありうる」など違う点を1枚で渡す。
内定辞退の防止というと、辞退の理由を聞き出す仕組みを整えたくなります。けれど今回の数字が示すのは、理由の多くは会社に届かないまま終わる、ということです。聞いて直すより、先に渡すほうが手を打てる余地が大きいと私たちは考えています。
接点表は、それだけで効く施策ではありません。求人票→応募→面談→内定→入社と続く候補者体験のうち、内定と入社をつなぐ段にあたります。ここで渡す情報が求人票や面接の話と食い違えば、それ自体が辞退の理由になります。
内定を受けた中途の候補者は、他社の内定や現職の引き止めと並べて比べていることが多い、と私たちは現場で見てきました。比べる材料が足りない会社は、「よく分からないほう」として後回しになるかもしれません。
候補者が内定後に待っているのは、歓迎の言葉より、決めるための材料なのかもしれません。
人事が一人で抱える必要はありません。上長と同僚から15分ずつ借りるだけで、4つの情報のうち2つは埋まります。
今日からできる3つ
- 直近の内定辞退者に送った連絡を並べ直す
内定通知から辞退までに、何を渡し、何を渡していなかったかを書き出します。辞退の理由は返ってこないことが多いので、確実に手元に残る材料は自社が送った連絡だけです。 - 配属先の上長に「最初の3か月の仕事」を3行で書いてもらう
改善要望で最多だった役割の説明を、上長自身の言葉で用意します。人事が代わりに書くと、面接で上長が話した内容とずれやすくなります。 - 求人票と違う点を1枚に書き出す
良い点も悪い点も、承諾の前に伝えます。入社前に実際の姿を伝えておく考え方は「RJP(現実的職務予告)」と呼ばれ、入社後のギャップによる早期離職を減らす手として知られています。
よくある質問
Q. 中途採用の内定辞退を防ぐには、何から始めればいいですか?
承諾を迷う材料を、聞かれる前に渡すことから始めます。入社後3か月の仕事と役割、条件の内訳と決まり方、求人票と違う点、配属チームの顔ぶれの4つを、承諾期限までに分けて渡すのが基本です。
Q. 内定辞退の理由を聞いても、本音は分かりますか?
分からないことが多いと考えておくのが安全です。キッカケエージェントの調査では、二次面接以降で選考を辞退したITエンジニアのうち、本当の決め手をすべて正直に伝えた人は26.8%でした。
Q. 内定後の連絡は、人事だけで足りますか?
人事だけにしないほうが効果的です。仕事と役割は配属先の上長が、チームの様子は同じチームの社員が話すと、面接の内容とずれず、候補者も入社後の毎日を想像しやすくなります。
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出典
キッカケエージェント(株式会社キッカケクリエイション)「ITエンジニアの選考辞退に関する実態調査」2026年8月18日公表・調査2026年6月12〜19日・過去の転職活動で二次面接以降に選考辞退をした経験のあるITエンジニアn=221・インターネット調査 kikkakeagent.co.jp/column/report/10515(出典元:キッカケエージェント)



