中途採用の給与を、前職の年収から決めている会社は少数派でした。転職者の賃金を決めるときに「前職の賃金」を考慮した事業所は27.0%、最も重視したのは9.2%です。
厚生労働省が2026年9月25日に公表した「令和7年転職者実態調査」の数字です。いちばん多かったのは「これまでの経験・能力・知識」で59.2%でした。では、経験をどうやって金額に置き換えればいいのでしょうか。
この記事では、中途採用の給与を決める4つの材料と当てる順番、提示額とその理由を1枚にまとめる決定表の記入例を紹介します。
中途採用の給与の決め方とは?自社の物差しに、候補者の経験を当てはめること
中途採用の給与の決め方とは、自社の給与の物差しを先に置き、候補者の経験や能力をそこへ当てはめて提示額を決める手順のことです。
物差しとは、等級や役割ごとの給与の幅、同じ役割の社員がいまもらっている水準のことです。中途採用では、この物差しを使わずに候補者ごとに金額を決めてしまう場面が少なくありません。
候補者ごとに決めると、その場では採れても、入社後に同じ役割の社員との差を説明できなくなります。次の中途採用で、前回の例外が新しい基準になってしまうこともあります。
給与の決め方を社内で1つにしておくと、面接官が変わっても提示額がぶれにくくなります。候補者に「なぜこの額か」を説明できるのも、決め方があってこそです。
中途採用の給与は何を見て決めている?考慮した要素の1位は経験・能力・知識
転職者の賃金を決めるときに会社が考慮した要素は、「これまでの経験・能力・知識」が59.2%で最も多く、「前職の賃金」は27.0%でした。

年齢35.3%、賃金の世間相場34.2%が続きます。前職の賃金は、「その他」を除く6つの要素のうち5番目でした。
考慮した要素のうち「最も重視した」ものを1つ選ぶ問いでも、「これまでの経験・能力・知識」が38.4%で最多でした。前職の賃金を最も重視した事業所は9.2%です。
規模によって違いもあります。従業員5〜29人の事業所では、前職の賃金を考慮したのは24.4%で、賃金の世間相場は36.4%でした。
1,000人以上の事業所では、前職の賃金が48.1%、世間相場が25.7%です。小さな会社ほど、前職より世間相場を見て決めていることがうかがえます。
中途採用の提示額はどう決める?4つの材料を決まった順番で当てる
中途採用の提示額は、役割と等級、経験と能力、世間相場、前職の賃金の4つを、この順番で当てていくと決めやすくなります。
順番には理由があります。前職の年収から考え始めると、前の会社がその人をどう評価したかを、そのまま引き継ぐことになるからです。調査で多かった年齢や免許・資格は、①の等級の要件と②の経験の中で見ると、二重に数えずに済みます。
- 役割と等級を先に決める
入社後に任せる仕事を、社内のどの等級・どの役割に当たるかで決めます。ここが決まると給与の幅が決まり、既存社員との釣り合いも取れます。 - 経験と能力で、幅の中の位置を決める
面接で確かめた経験を、幅の上側か下側かに置き換えます。「任せる仕事に直結する経験か」で見ると、肩書きや社歴の長さに引っぱられにくくなります。 - 世間相場で、外れていないかを確かめる
同じ地域・同じ職種の求人を10件ほど集め、提示の幅と比べます。候補者の多くは求人を並べて比べているはずで、相場から大きく外れた額は、応募や承諾の段で選ばれにくくなると考えられます。 - 前職の賃金は、最後に参考として見る
前職の年収は、賞与や残業代の割合で大きく変わります。内訳をそろえてから比べ、下回る場合は伝え方を用意します(次の節)。
4つの材料と提示額を1枚に書いておくと、面接官や経営者と同じものを見て決められます。記入例は次のとおりです。
① 役割と等級:月次決算を一人で締める担当。社内では主任に当たり、いまの主任3人は月給30万〜34万円
② 経験と能力:月次決算を5年担当、会計ソフトの切り替えを1回経験。部下の指導経験はなし。幅の中ほどに置く
③ 世間相場:同じ市内の経理の求人10件で、月給の幅は28万〜35万円。中ほどなら外れていない
④ 前職の賃金(参考):本人の申告で年収470万円。残業代と賞与の内訳を確かめてから月給に直して比べる
⑤ 提示額と理由:月給32万円。「月次決算を一人で締めてきた経験を、主任の幅の中ほどで評価しました」と一言で伝える
従業員60人の部品商社を想定した、架空の記入例です。金額は書き方の例で、相場を示すものではありません。
中途採用で前職より低い給与を提示するときは?理由と、上がる道筋を一緒に伝える
中途採用で前職より低い給与を提示するときは、金額だけを伝えず、その額になった理由と、入社後に上がる道筋を一緒に伝えます。
まず、比べる物をそろえます。前職の年収に残業代や賞与が多く含まれている場合、月給だけを比べると差が大きく見えます。年収の内訳を聞き、同じ形にして比べてください。
そのうえで下回るなら、役割と評価の言葉で理由を伝えます。「前職の年収には届きませんが、主任の幅の中ほどで評価しました」のように、決め方そのものを見せる言い方です。
あわせて、次に給与が見直される時期と、上の等級に進む条件を伝えます。いつ・何ができれば上がるのかが分かると、今の金額だけで判断されにくくなります。
給与は内定の段で初めて出てくる数字に見えますが、候補者はもっと前から比べ始めているはずです。求人票の給与欄の幅を見て応募し、面接では自分の経験がどう評価されるかを探っていることが多いでしょう。
求人票に書いた幅、面接で確かめた経験、内定で示す提示額と理由。この3つが同じ物差しでつながっていると、提示額は候補者体験の自然な続きとして受け取られます。
どこかで物差しが変わると、内定の段で初めて食い違いが見え、辞退や入社後の不満の芽になることがあります。
同じ調査の個人調査では、自己都合で辞めた転職者の離職理由(3つまで)は「賃金が低かったから」が25.5%で最多でした。2位・3位もほぼ並び、「能力・実績が正当に評価されない」も18.9%ありました。
御社の内定通知を開いた一人の候補者にとって、提示額の数字と同じくらい気になるのは、その額が自分の経験をどう見て決まったのかかもしれません。理由の分からない額は、高くても低くても、前の会社と同じことが起きるのではという不安につながりえます。
決め方を一言で説明できる会社は、「入社後も評価の筋道が見える会社」として映りやすくなります。
今日からできる3つ
- 募集中の職種と同じ役割の社員の、給与の幅を1行で書き出す
物差しが無いまま面接に入ると、候補者が話した前職の年収が、いつの間にか物差しの代わりになります。先に1行あるだけで、話の出発点が自社の側に戻ります。 - 同じ地域・同じ職種の求人を10件集め、提示の幅を控えておく
従業員5〜29人の事業所では、賃金の世間相場を考慮した割合が36.4%と、前職の賃金の24.4%を上回っていました。相場は、小さな会社ほど頼りにしている材料です。 - 提示額に、理由を一言添えて伝える
「何を評価してこの額にしたか」を一言で添えます。金額だけの通知は、候補者が他社の提示と数字だけで比べる材料になりやすいためです。
よくある質問
Q. 中途採用の給与は、前職の年収に合わせるべきですか?
合わせる必要はありません。前職の年収は参考にとどめ、自社の役割と等級、経験と能力を先に見て決めます。厚生労働省の令和7年転職者実態調査でも、賃金決定で前職の賃金を考慮した事業所は27.0%でした。
Q. 前職より低い給与を提示すると、辞退されやすいですか?
金額だけを伝えると、他社の提示と数字だけで比べられやすくなります。年収の内訳をそろえて比べたうえで、その額になった理由と、次に給与が見直される時期や上がる条件を一緒に伝えてください。
Q. 既存社員より高い給与で、中途の人を採ってもいいですか?
任せる役割や等級が違うなら、あり得ます。同じ役割なのに高くなる場合は、入社後に差を説明できるかを先に確かめ、必要なら既存社員の給与の見直しもあわせて考えます。
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出典
厚生労働省「令和7年転職者実態調査の概況」2026年9月25日公表・2025年10月1日時点・5人以上の常用労働者を雇用する事業所とそこで働く転職者が対象・有効回答9,154事業所/7,310人 mhlw.go.jp



